第1回松川事件記念「松川賞」の受賞者の発表と講評

 <受賞者発表と講評>

 松川事件記念「松川賞」のための作品募集・選考の業務を行うために、NPO法人・松川運動記念会から委嘱を受けて組織された「松川賞運営委員会」委員長の今野と申します。
 委員会は、「松川事件・松川裁判・松川運動の事実と教訓を学び、後世に正しく継承するために」設けられた「松川賞」の意義を十分に生かすことができるように、努力してまいりました。
 松川賞の作品募集についての十分な宣伝する時間的余裕もありませんでしたが、4部門で募集しました。①研究・評論部門、②創作部門、③読書感想文部門、④語り継ぐ活動部門の4つです。4月〜5月の受付期間中に、福島県内外から10人の方のエントリーを受けましたが、残念なことに、3人の方から締切日に間に合わないということから辞退され、結果的に7人の方から選考することになりました。
 なお、この4部門とは別に、既に故人になられた方でも、松川事件に係る作品で、2010年以降に発表された優れた作品については、運営委員会の選考で、「松川賞運営委員会『特別賞』」を、授与することにしました。
 応募された7人の方々の世代を見ますと、20代1人、40代1人、50代1人、60代2人、70代2人で、全般的に中高年齢者の応募が中心でしたが、52年前の松川事件最高裁無罪判決の時点では、まだ生まれていないか、10代以下の人が5人(7割)です。
松川事件の無罪獲得の運動に参加していた方々というよりも、その後に関心を持ち、応募していた方々が多かったということは、松川事件・松川運動の継承の観点でみると、大変、喜ばしい事と思っています。今回の募集をバネに、さらに、広範な層が、福島大にある「資料室」も最大限活用して、積極的に、次回以降の作品募集に応じていただくことを期待しています。
 なお、今後の作品募集に当たっては、募集した4部門に加えて、エッセーのような「小論」の部門もあった方がいいのではないかと、応募された作品を審査するなかで、多くの運営委員のご意見があったことを報告しておきたいと思います。
 4部門にかかわっては、次のお二人の方に、「松川賞」を授与することにしました。
 ①研究・評論部門で、前田新(まえだ・あらた)さん、②読書感想文部門で、室井誠斗(むろい・まさと)さんのお二人です。
 ①研究・評論部門の前田さんの作品は、「戦後70年と松川事件―いま、それを語り継ぐことの意義」です。この作品は、戦後70年を自らの人生・体験と重ね合わせながら、それを語り継ぐ意義を論じている。松川事件占領政策としてなされた謀略事件であること、この謀略による冤罪に加担した日本の権力、無罪に導いた獄中・獄外での運動を分析しながら、繰り返される冤罪事件とともに、原発事故・戦争法案・沖縄基地問題の中で、とらえ直しながら語り継ぐ意義を明確にした優れた作品です。
 ②読書感想文部門の室井さんの作品は、伊部正之著の「松川事件と平事件のナゾを読んで」です。単なる列車転覆事件として捉えていた反省の中で、対象の著書を読むことを通じて、多面的に松川事件を捉えていく必要に辿り着いています。本人の専攻とする歴史学的視点だけでなく、今日の司法改革問題、裁判への国民参加の問題等法学的視点の重要性を強調し、また事件を後世に伝え残す重要性を重視している優れた作品です。
 以上2点ですが、さらに松川賞運営委員会は、2010年以降出版の作品の審査を通じて、残念ながらお亡くなりなってしまったお二人の作品に、「松川賞・運営委員会『特別賞』」を授与することにしました。
 ③お一人は、原史江(はら・ふみえ)さんの 小説『杏子』です。原さんは2012年にご逝去されましたが、本書は2013年2月に、本の泉社から出版されています。宮城県職員組合発行の『教育文化』に2000年〜2004年までの連載したものがベースになっています。著者が、学生として、松川運動に関わりながら、若者たちの生きざまを伝える、生き生きとした物語になっています。自分の生きた時代とその経験とを克明にたどり、友情や熱気を今日に伝えています。松川事件の無罪を勝ち取る、学生としての関わりを生き生きと描き、みずみずしい感動を与えてくれている優れた作品です。
 ④もうお一人は、鈴木信(すずき・まこと)さんの 『句集 真実の風』です。鈴木さんは、2013年にご逝去されましたが、この句集は2010年2月に、自主出版の形で公刊されています。鈴木さんは、松川事件の主な被告人の一人ですが、本書は、ご本人の松川事件にかかわる俳句集です。この句集は、全体として、長編の詩になっているものです。冒頭の俳句、「すぐ帰る 夏シャツ一枚 家あとに」・・・まさか自分が逮捕されるとは、考えもしなかった状況が描写されています。家族に、「すぐ帰るから」と一言残して、長期の獄中生活を強制されます。他の句には、「すぐ帰る すぐが一〇年四季移り」。1949年〜1961年(不当逮捕から無罪判決まで)、1961年〜2009年(無罪判決から現在まで)と、松川運動の歴史を被告人当事者の立場から、俳句を通じて、その明らかにしています。俳句を通じて、松川事件の非人道性を明らかにしており、後に続くものが、学ぶ上でも優れた作品です。
 以上が、受賞作品と若干の講評ですが、今回、受賞作品とならなかった作品は、未公刊のものですので、敢えて「佳作」のような選考はしませんでした。今回の提出の作品に、今後、さらに磨きをかけて、次回以降の募集に応じて欲しいとの考えからです。
 今後、是非、多くの方々が、積極的に応募され、そのことを通じて、松川事件・松川運動を正しく継承する運動に参加いただくことをお願いして、受賞作品の発表と講評に代えたいと思います。
  (運営委員長・今野順夫)